寄稿文Connection

「せらせらぴー。春」

写真と文山本まりこ

■世羅高原農場との出会い

「日本で好きな撮影地はどこですか?」

と今まで山のように質問をいただいてきたけれど、迷わず答える場所の一つが広島県の世羅高原農場。春はチューリップ、夏はひまわり、秋はダリア、四季折々美しい花々が一面に咲く魔力のような魅力に惹かれ、気づくと足を運んでいる大好きな場所です。2013年から今までにわたり、フォトツアーの講師として、撮影のお仕事で、そして、プライベートでと、合計10回以上訪れています。

初めて訪れた季節は秋。
米どころらしく田んぼがたくさんある世羅の町並みから車で約15分、人里離れたひっそりとした緑あふれる高原の中に花園はありました。そこには、ダリアのお花が咲いていました。見渡す限り一面、いっぱいに。 ピンク、濃いピンク、赤、紫、朱色、オレンジ、白、黄色、黄緑などたくさんの色で溢れ、そして、梅干しくらいの小粒のサイズから、人の顔より大きいサイズまでの様々なダリアが風に揺れ、夕日に輝いていました。

ふわふわ
ゆらゆら

「夢のよう」という言葉があるけれど、本当にそれはまるで夢のようで、私はその夢のような花園の中で、夢中でシャッターを切り続けました。もともと、あまり知らずにお仕事の一つとして訪れた私にとって目の前に広がる美しさは衝撃で、瞬く間に世羅高原農場のファンになったのです。

そして、初めて訪れたときから、私の一番好きなお花はダリアになりました。

ファンになった私はその後、世羅高原農場に何度も通うことになりました。訪れる中で、自分の中の代表作と言える作品も何枚か撮影することができました。今となっては、そのくらい大好きな、そして、大切な場所となりました。

■ある春のこと

2022年の春、世羅高原農場を訪れました。
キリっと青空が美しい、ある晴れた日でした。

風がふわり
花がゆらり
人がにこり

早朝は、朝露がついたお花に出会うことも。
夕方には、斜めから射す太陽の光をキラキラと浴びたお花たちが輝いています。
毎秒美しいと感じさせてくれる世羅高原農場のお花たち。ふと見ると、スタッフのみなさんが黙々と手入れをされています。広大な農園のお花がどこを見ても美しいのは、スタッフのみなさんの日々の丁寧な管理によって保たれているのですね。

世羅高原農場代表吉宗誠也さん。いつも未来のことを熱く語って下さる吉宗さん。

■世羅高原農場のこと

世羅高原農場は、広島空港から南に車で約40分、新幹線が停車するJR新尾道駅から北に車で同じく約40分の場所にあります。私は、神奈川県から電車で羽田空港に向かい、広島空港から車で世羅高原農場に訪れることが多いです。もう慣れてしまっているのか、車窓を楽しみながら撮影していたら、あらもう着いちゃった、毎回そう思います。関東から、距離は遠いけれど、空港や新幹線停車駅からアクセスが良いのでとても便利。今までたくさんのフォトセミナーを世羅高原農場で開催してきましたが、東北・関東・東海・中部・関西・四国・山陰・九州からなどなど、全国からみなさん撮影に来て下さっています。

今まで世羅高原農場について書いてきましたが、世羅高原農場は、グループとして4つの花観光農園「世羅高原農場」「Flower village花夢の里」「そらの花畑 世羅高原花の森」「せらふじ園」が世羅高原エリアに点在しています。

中でも、春のせらふじ園のふじまつりは、私のお気に入り。

高低差がある立地を生かし、藤のお花を上から下からいろいろな角度で楽しめるところや、木陰や休むところがたくさんあるところがお気に入りのポイントです。

藤棚のお花の下で、椅子に座りながらゆっくりと、藤がゆらゆらと揺れる姿を見ているのはとても幸せな時間。ゆーらゆらゆーらゆら、藤が揺れて、私の心もふわふわと揺れて、ただただずっとこうしていたい、そう思いながらぼーっと眺めてしまうのです。気づいたら一時間、同じ場所で藤を眺めていたこともありました。お隣を見ると、ご夫婦が、二人でちょこんと椅子に座って藤のお花を眺めていたり。子供たちが、藤棚の藤を触りたくてぴょんぴょんと跳ねていたり。

なんて素敵な時間
なんて美しい日本

特にお気に入りなのは、夕刻の時間です。

時間を忘れたかのようにシャッターを切り続けました。
この時は一人で撮影していました。でも、この場所のこの時間はきっと数年のうちに、写真好きな方々でいっぱいになるのだろうな、そんなことを想像しながらシャッターを切っていました。

■世羅のごはん

世羅高原農場を訪れる楽しみの一つが世羅のごはん。世羅は、美味しいごはん屋さんがいっぱい。その中の一つ、雪月風花 福智院さん。世羅町の史跡今高野山の参道にある、江戸時代に建てられた宿坊を修繕した日本茶カフェです。広島在来茶をはじめ地域の食材を使った甘味や精進料理などを提供されています。

お膳の上に可愛らしくのっているこちらは、世羅でとれたお米の米粉を使った世羅米パンケーキ。世羅産の米粉と豆乳で作った生地は、むっちりむちむち。小柄なサイズながら食べ応えたっぷりです。広いお庭の煌めく新緑を眺めながら、ゆっくり。それはそれは、至福な時間なのです。

■せらせらぴー

美しいお花に囲まれ
美味しいご飯をいただき
優しい人々とお話し
いつの間にか笑顔になっている、世羅高原の旅。それは、大きな優しさに包まれているように気持ち良くて、まるでセラピーを受けているよう、そんな風に思うのです。だから、私は、世羅で過ごす気持ち良さを「せらせらぴー」と呼んでいます。

と、出会いからつらつらと書かせていただきましたが、改めまして、世羅高原農場さん、45周年、おめでとうございます。私が通うようになってから約10年。私が通う間にも、どんどんとお花の種類が増えてますます広くなっていく世羅高原農場さん。これから一体、どんな未来が待っているのでしょうか。日本ではまだ見たことがないようなお花の世界を見せてくれるのでしょうか。楽しみで仕方ありません。

今年の春、
「世羅高原農場」では、30,000㎡の丘にしだれ桜と菜の花が広がり、その後は65,000㎡の大地に200品種75万本のチューリップ。
「Flower village花夢の里」では、西日本最大級40,000㎡の丘に45万株の芝桜と100万本のネモフィラ。
「せらふじ園」では、30,000㎡に約1000本の藤と、昇り藤という別名もあるルピナス12,000株。
「そらの花畑 世羅高原花の森」では、イングリッシュローズの花園が開園、150品種・7,200株のバラと200品種2,000株の宿根草。
と様々な花たちが咲き広がるのだそう。

す、すごい…。もう、どこから見たらいいのか分からないくらいの巨大な花園が世羅高原にはあるのです。

せらせらぴー

次はいつ訪れよう。
春かな、秋かな。
明日かな。

山本まりこ

写真家。スパイスフーズ作家。理工学部建築学科卒業後、設計会社に就職。25歳の春、「でもやっぱり写真が好き」とカメラを持って放浪の旅に出発しそのまま写真家に転身。風通しがいいという意味を持つairy(エアリー)をコンセプトに、空間を意識した写真を撮り続けている。撮影、執筆、講演、講師など活動は多岐。写真集「ARIY COLORS」「熊野古道を歩いています。」、著書「エアリーフォトの撮り方レシピ」など11冊出版。写真とスパイス料理の教室Room5656主宰、写真とスパイスカレーの空間PEANUTSuu(ピーナッツぅ)をOPEN。好きな食べ物は、カレーとイカ。