寄稿文Connection

本当はだれにも教えたくない、とっておきの花畑。

花写真家わたなべもも

平地よりも長く厳しい冬を乗り越えた世羅高原では、春の花たちの開花を皮切りに、花のリレーが始まっています。つまり、どの季節に訪れても途切れることなく花が咲いているのです。さらにその花の規模はいつも想像を上回り、手入れの行き届いた美しさ、種類の豊富さは、訪れるたびに「感動」というプレゼントくれるよう…。本当は、誰にも教えたくないくらい、とっておきの花畑なのです。ですが一方で、こんなに素晴らしい景色、こんなに一生懸命に育てられた花たちを、もっとたくさんの方に見てほしいという想いがむくむくと湧き上がってきます。今回は、春の花たちからバトンを渡された、初夏の花たちのご紹介です。

「朗らかな笑顔のイングリッシュローズたち」そらの花畑 世羅高原花の森)

天空の花畑。そう呼ばれているバラ園がある。
バラは世界中で愛されている花の代表のような存在。
どんな景色なのだろう…。期待値はすでに最大レベルだ。
さわやかな初夏のある日。
ワクワクしながら花園に足を踏み入れると、そこには絵本をひらいたようなかわいらしい世界が広がっていた。

*絵本の1ページのような世界にうっとり。
*バラを見るというより、バラに包まれた時間を楽しみたい。

さえぎるもののない気持ちよさ。
標高540m、空に手が届きそうだ。
思いっきり伸びをする。そして、深呼吸。
ああ、しあわせな芳香。
身体中をこのかぐわしさで満たしたくて、なんどもなんども深呼吸してしまう。
バラは朝のほうがより香りが立ちのぼるらしい。
午前中にきて大正解だ。

*香りに包まれながらの撮影はなんとも贅沢な時間。
*こんな素敵なところでひと休みすれば、もう絵の中の一部に。

わたしにとってバラは、華やかで気高く近寄りがたいオーラを放つ、大女優のイメージ。でもここのバラたちはつんと気取った感じがいっさいなく、とても親しげな笑顔を向けてくる。理由はすぐにわかった。オーナーのこだわりで、イングリッシュローズだけを集めていたのだ。丸くてふんわりとした花びら。こんなに優しくてかわいらしくて親しみやすい…一言でいうと「朗らかなバラ園」は、はじめて。イングリッシュローズだけといっても、150品種、7200株は見ごたえ充分。朗らかなバラたちに囲まれて、こちらもすっかり笑顔になっている。

*色同士が溶け合って、よりメルヘンの世界を作りだす。
*カエルの王子様、お久しぶり!近頃はここがお気に入りなのですね。

ひとつひとつのバラを丁寧に見ていたら、久しぶりにカエル王子に出会った。最近はここがお気に入りらしい。
そして、子どもにしかくぐれないだろう小さなバラのアーチを見つける。覗いた先にもイングリッシュローズが揺れているけれど、きっとそこは別世界。たとえば、アリスが迷い込んだハートの女王の庭で、トランプの兵隊たちがペンキでバラの色を塗り替えている…そんな妄想を描きながらシャッターを切った。

*トンネルの向こうの物語の世界へ思いを巡らせる。
*噴水のしぶきがキラキラ。まるで魔法の粉を振りまいているみたい。

夢中で撮っていたら、わたしのお腹はぐぐぅと音をだし「そろそろ休憩しませんか」と提案してくる。「そらのキッチン」は園内にある腹ぺこさんの味方。迷わず大好きな世羅バーガーをいただく。この時のバーガーは世羅高原豚を使ったオリジナルパテに厚切りベーコン、トマト、ベビーリーフ、レッドオニオン、ピクルスを特注バンズで挟んだ豪華な逸品。テラス席でローズソーダと共にバラを見ながらパクリ…大満足!世羅高原の食材を使った世羅バーガーは、世羅高原の複数のお店で取り組まれていて、お店ごとに中身が違う。そして、どんどん進化していくので、同じものが次回また食べられるとは限らない。見つけたときに食べておきたい、とっておきのご当地グルメだ。

*ご当地グルメの世羅バーガーは出会ったときに食べておきたい。

お腹が満たされたら、午後からもうひとがんばり。まだまだ撮りたいものがある。
バラととても相性の良い宿根草。ここには何種類もの宿根草が咲いているのだ。

*ガウラの別名はハクチョウソウ。風が吹くと蝶たちが羽ばたいているように揺れる。

花の組み合わせや色の組み合わせは自由自在。花の配置にもこだわっていることがよくわかる。見てきれい、撮って楽しい、だから時間がいくらあっても足りなくて困ってしまう。

*珍しい花に出会うと、テンションがぐぐぐっとあがる。

もちろん、バラとほかの花を組み合わせるのも素敵だ。脇役が違うだけでいかようにも表情を変えるのは、バラの大きな魅力だ。

*主役のバラを引き立てる名脇役が、数多く揃っているのは心強い。

気持ちの良い風が吹いて、からんと明るい笑い声が運ばれてくる。朝からずっと花の手入れをされている、ガーデナーさんたちの楽しげな声だ。このバラ園には笑い声がにあうなあ。朗らかな時間に心から癒されているわたしがいた。

「青空とお日さまがにあうアジサイ」 (花夢の里)

ついこの前までネモフィラの青いじゅうたんを広げていた花夢の里は、季節ごとにすてきな花畑を用意していて、すでに初夏を彩りはじめたアジサイたちがスタンバイしている。 高原に咲くアジサイのなんて爽やかなこと!梅雨のじめじめなんてすっかり忘れてしまう。ここのアジサイは雨よりもお日さまがにあう。青空がにあう。

アジサイという花は色も種類も実に多いのだけれど、ここでは115品種、3500株…さすが、毎回期待を裏切らない。しっとり撮るビターなアジサイもよいけれど、光と戯れながら丘一面を飾るアジサイはまるでスイーツ。かわいい色の小花たちは、ケーキ屋さんに並べたいほどふんわり美味しそう。

*口に入れたらすっと溶けてしまう砂糖菓子のよう。
*ブルー系は冷やしてゼリー風がおいしそう。

こんもりかわいいアジサイを見ていたら、青空の下でシートを広げてごろんと寝ころびたくなった。気分はすでにピクニック。ごみを持ち帰るのならお弁当の持ち込みも自由だそう。食後にスイーツが食べたくなったら、あじさい色のソフトクリームやあじさいソーダを召し上がれ。

*新しい品種がどんどん登場するアジサイ。どれもカワイイ。

ここではぜひ忘れず見てほしい景色がある。
花夢の里のいちばん奥までずんずん進むと、ホワイト×グリーンの世界が突然広がるのだ。
こんな奥に、秘密の花園を隠しておくなんて…ニクイ演出だ。

*圧倒的なアナベルの森は必見!

繊細なレースで編んだような白い小花を、黄緑色の葉のお皿にたっぷりと盛り付けたようなアナベル。しゃがんで見上げれば、そこはもうアナベルの森だ。思い切り深呼吸すれば、森林浴をしているような清々しさ。

広角レンズで見上げて、花のフレームで空を囲んだり、望遠レンズで大きく引き寄せて繊細なレース模様を写し撮ったり。同じ花でもレンズを変えるだけでまるで違う写真になる。

アナベルのように細かい隙間がたくさんある花は、ふわふわで上質の前ボケを作り出す。これだけ花のボリュームがあれば、他にもいろんな撮り方ができそうだ。秘密の花園はまだまだいろんな秘密を隠しているかもしれない。

最後に、とても珍しいタチアオイの花畑をご紹介。

すくすくとまっすぐに伸びた茎には、パステルカラーのパラソルみたいな花がいくつもくっついている。わたしの背よりも高くそびえるその花は、アンテナのようであり、魔法の杖のようでもある。

タチアオイが3500株集まると、お花畑になるのだなあ。いや、花畑というより花森だ。
「今年の夏は、どんな日傘にしようか…。」ひらひらかわいいパラソルをじっくり見ていると、筋模様の入ったものや、真ん中がくしゅくしゅしているものなど、なかなか凝ったデザインが多い。

こんな素敵な日傘をさして、タチアオイの花森で楽しく迷子になってみたい…。やっぱり花夢の里は、花と夢を見る場所だ。

<世羅のおすすめスポット>
花たちに守られつづける寺院 (康徳寺)

世羅には花を慈しむお寺さんがある。
水墨画の雪舟が手掛けた「雪舟庭」でも有名な康徳寺だ。
道の両脇を彩るアジサイに誘導されるように、駐車場へと車を止めた。
ふと、山門へ向かう石垣のあたりから、何やら威圧感を受けると思ったら…。
「開運遠磨」と記された大きなだるまさんに見下ろされていた!
なんとも愛嬌のあるお姿。見つけた人にはいいことあるのかな。

*石垣に紛れるように埋め込まれているだるまさんはユーモアたっぷり。

お寺のなかへはいると、カラフルな花手水が出迎えてくれる。
これだけで、ここの住職さんがどれほど花好きか、花でもてなそうとされているか、お気持ちが伝わってくるものだ。

寺院内は思いのほかアジサイの種類が多く、庭園を散策しながら花探しを楽しむことができる。
水辺に映り込むアジサイはしっとりとしており、いつの間にか心をおだやかに静めてくれるようだ。

*水鏡に映る自身の姿を覗き込んでいるかのように、水面ぎりぎりに咲いていた。
*前ボケがハートの形になって、ちょっとうれしい。

小石に文字を書き納める一角があったので、思いを込めて「平和」とお納めしてきた。
こぢんまりとしたお寺のあちこちに、訪問者を楽しませるよう趣向を凝らしている。

*前ボケがハートの形になって、ちょっとうれしい。

さらに奥へ進むと、緑が生き生きと鮮やかになる。
アジサイは日陰でも元気に咲くので、木漏れ日を受けながら木々の間にぽつりぽつりと覗く様は、心落ち着く日本の風景だ。

*純白のアジサイと青紅葉の組み合わせに、命の輝きを感じる。

かわいい彩りのアジサイとは対照的な、渋く深く重厚なアジサイたち。
歴史を感じるこの寺院を、ずっと守り続けるようにひっそりと佇んでいる。

*ビターなアジサイたちは、アンダーで撮りたい。

アジサイの向こうに、明るい出口が見えてきた
地元の方々から親しまれ、花たちに守られながら、特別なこの場所はこの先もずっと変わらず続いてゆくのだろう。

わたなべもも(花写真・作詞・おはなし)

幼稚園在職中に作詞家デビューし、翌年退職。子どもの歌やおはなしを書き始める。その後、写真家 丸林正則 氏に出会い、花写真を学ぶ。花かごの代わりにカメラをもって、花を摘む代わりにカメラの中を花でいっぱいにする。「レンズの奥の不思議の国」をテーマとし、独自の感性を活かしたワークショップや、おはなしをテーマに作品作りをする「Story*Photo」を展開中。SONYαアカデミー講師、PHOTO*MOMOTTO主宰。花フォトももぐみキャプテン。CDと写真詩集「gradation」を発売中。